嘉納治五郎と100年レガシー

オリンピック教育とは何か?

オリンピック競技大会は、世界的なスポーツのビックイベントとして、正負の両面の性質を帯びながら成長してきました。現在では、さまざまなレガシーを生みだすことで、社会との多様な関係性も示しつつあります。各大会の運営を担う組織委員会は、「オリンピック教育」の取り組みに関しても、新たな手段や方法を模索しながら、レガシーを残してきました。オリンピック教育のねらいは、単に「オリンピックを学ぶ」ことだけではなく、オリンピックを題材として、世界に広がる多様な価値を学ぶことにあります。オリンピックの理想を取り入れながら、体育やスポーツという分野にとどまらない教育活動や文化活動が対象や目的に応じた方法を用いて、各国で行われています。

なぜオリンピック教育か?

国際オリンピック委員会(IOC:International Olympic Committee)は、関連機関との連携を強化し、オリンピック教育をさらに推進していくために、2000年に文化・オリンピック教育委員会を設立しました。IOCが、オリンピック・ムーブメントにおける中心的な活動としてオリンピック教育を位置付ける理由は、「オリンピズムの根本原則」で確認することができます。この根本原則は、オリンピック・ムーブメントの組織体制や活動指針、オリンピック競技大会の開催条件などがまとめられている「オリンピック憲章」に記されています。そのうち、2つの条文を紹介します。

1. オリンピズムは人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化と教育と融合させることで、オリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造である。 2. オリンピズムの目標は、スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てることにあり、その目的は、人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある。

「オリンピズム」という用語は日本人にはなじみが薄く、哲学的な意味合いを含む上に、翻訳されたこの文章は、少し難解な印象もうけます。オリンピズムは、近代オリンピックの復興者であるピエール・ド・クーベルタンが構想した教育的、平和的な理念であるという理解が一般的ですが、その解釈は時代や文化的な背景の影響を受けてきたことは事実です。しかしながら、「オリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造である」、「オリンピズムの目標は、スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てることにあり、その目的は、人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある」とあるように、その道徳的な価値や理想に基づいて、個々人を成長させるような教育を重視し、平和なよりよい社会の構築を目指していることが読み取れます。これがまさに、IOCがオリンピック教育を推進する理由であり、各国のオリンピック委員会(NOC: National Olympic Committee)やオリンピック・アカデミー(NOA:National Olympic Academy)に対して、若者を対象とした活動に重視するよう働きかける動機となっています。

オリンピック教育はどのように行われているか?

オリンピズムの理想をより具現化するために、IOCは、その価値として、「卓越(Excellence)」、「友情(Friendship)」、「尊敬(Respect)」の3つを設定しています。そして、この3つのオリンピック・バリューをよりどころとして「スポーツ・フォー・オール」、「スポーツを通じた平和活動」、「スポーツを通じた教育活動」、「女性とスポーツ」、「スポーツを通じた開発」、「スポーツと環境」の6領域にわたる活動を行っています。これからのオリンピック・ムーブメントは、これらの活動を主要な柱として、社会への貢献を目指した取り組みを積極的に行っていくと考えられます。
IOCは、「スポーツを通じた教育活動」の一つとして、オリンピックの価値教育プログラム:OVEP(Olympic Values Education Programme)を作成しています。このプログラムは、若者を対象とした教育プログラムの充実を図り、オリンピック・バリューをさらにグローバルなものとして展開していくことを意図しており、5つの教育的価値「努力する喜び(Joy of effort)」、「フェアプレイ(Fair play)」、「他者への尊重(Respect for others)」、「卓越さの追求(Pursuit of excellence)」、「身体、意志、心の調和(Balance between body, will and mind)」が示されています。8歳から18歳までを対象に作成されていますが、目的等に応じて、多種多様に活用できる具体的な内容が詰め込まれたツールキットとなっています。オリンピズムの教育的価値をどのように教え、学習するかという視点から、教師やリーダーのための手引書としてわかりやすくまとめられており、オリンピック教育の実際についての知識を身につけることができます。
また、近年IOCは、FacebookやTwitterといったソーシャルネットワークシステム(SNS:Social Network System)を多用しています。少しでも多くの若者に、スポーツの魅力を知ってもらうことがそのねらいです。2010年から開催されているYOGにおいても、SNSがオリンピック教育の一翼を担うメディアとして利用されました。

日本におけるオリンピック教育

日本では、1964年に開催された東京大会を契機として、オリンピックについて学ぶことを主眼とした「オリンピック学習」を中心に、オリンピック教育が継続されてきました。1972年の札幌冬季大会、1998年の長野冬季大会、2016年、2020年東京大会招致活動においても、さまざまな試みが行われています。特に、長野冬季大会の際に行われた一校一国運動は、その代表例といえます。長野市内の小中学校、特別支援学校の各校が応援、交流する国や地域を決め、文化交流に取り組んだ一校一国運動は、IOCからも高い評価を受けました。また、その後開催された複数の大会において、オリンピック教育プログラムの一部として継承されるとともに、日本国内における国際理解教育の一環としてもインパクトを与えるものでした。

現在では、学習指導要領の改定に伴い、中学校、高等学校の体育分野に「オリンピック」という文言が明記され、教科としての体育において、オリンピックを学ぶこと、オリンピック通して学ぶことが定められています。日本におけるオリンピック教育の実践は、1964年東京大会から長い歴史を有し、数多くの蓄積があります。オリンピック教育につながるエッセンスは、一教科である体育に限らず、特別活動や課外活動も含む学校教育、あるいはその延長線上にある生涯学習の中身としても確認できるはずです。諸外国と比較しても、日本にはオリンピズムを出発点としない実践に、同様な理念をもった内容が題材として数多く扱われていると考えられるからです。これらをオリンピック教育というフィルターを通じて再配置することで、日本における教育の理念や体育の意義、スポーツの価値について再考することができるのではないかと考えています。
オリンピック教育は、世界に広がる多様な価値について、スポーツを通じて学ぶことができる手段です。日本のオリンピック教育の概念や具体的なカリキュラムの整理が今求められています。

オリンピック教育プログラム調査 (Sochi2014)

日本の学校教育やジュニアアスリート育成における教育プログラム開発に貢献することを目的として、2014年ソチ冬季オリンピック・パラリンピック大会にあわせて実施されるオリンピック教育プログラムの実態を調査した。
(平成25年度スポーツ振興くじ助成金事業)

世界のOlympic Studies Centre

[参考文献等]

編集協力:荒牧亜衣・筑波大学オリンピック教育プラットフォーム

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