嘉納治五郎と100年レガシー

アンチ・ドーピング活動って?

アンチ・ドーピング活動とは、スポーツの持つ固有の価値と精神を護り、公平で公正なスポーツの発展を支え推進するムーブメントのことです。
スポーツは社会を映す鏡であると言われます。アンチ・ドーピング活動を通して、私たちはスポーツにおけるフェアプレーやチームスピリットの大切さだけでなく、社会的な責任の重要性について学ぶことができます。正々堂々とプレーした勝者は、「真のチャンピオン」として、社会や若い世代へのロールモデルとなります。これらのアンチ・ドーピング活動の価値は「プレー・トゥルー (Play True)」という統一のメッセージに象徴することができます。

どのようにアンチ・ドーピング活動は行われているの?

1999年に設立された世界ドーピング防止機構 (World Anti-Doping Agency, WADA)が統括組織となり、国際的かつすべてのスポーツに適応される統一されたルールである「世界ドーピング防止規程 (World Anti-Doping Code, WADC)」が定められます。アンチ・ドーピング活動はこの規程に則り、世界的な「ムーブメント」として推進されています。日本国内では、日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency, JADA)が国内の統括組織となり、WADCに基づいて国内のアンチ・ドーピング・プログラムの実践的運用をしています。

グローバルなドーピング防止活動の体系

アンチ・ドーピング活動は、各国政府とスポーツ界が50:50の割合で拠出金を出し合い、共に理事会への代表権を持つハイブリッドな国際体系の下に推進されています。
アンチ・ドーピングの「グローバル・ファミリー」の半分は、WADCの「署名当事者」であり、プログラムを展開する「アンチ・ドーピング組織 (Anti-Doping Organisations, ADOs)」で構成されています。署名当事者であるADOsには、国際競技連盟(International Federations for Sport)、各国ドーピング防止機関(National Anti-Doping Organisations, NADOs)もしくは国内オリンピック委員会(National Olympic Committee, NOCs)、IOC、国際パラリンピック協会 (International Paralympic Committee, IPC)、そして各オリンピック・パラリンピック大会組織委員会や主要競技大会組織委員会ら含まれ、WADCに基づき、各組織のアンチ・ドーピングに関する規則を策定しています。
もう半分のファミリーは、各国政府によって成り立っています。WADAはスイス法に基づき設立されているため本来であれば「私的」団体の規定でしかないWADCに法的根拠を持たせるために、2005年10月19日、第33回UNESCO(国際連合教育科学文化機関)総会で『スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約 (International Convention against Doping in Sport)』が全会一致で採択、2007年2月1日に発効されており、2012年3月時点で168か国が締結しています。
この「政府:スポーツ界」=「50:50」のハイブリッド国際体系は、他の国際機関では見られない、稀なものであると言えます。

世界アンチ・ドーピング・プログラム

世界のアンチ・ドーピングのプログラムは、ADOsが3つのレベルで運用をしています。

  • Level 1 - 世界ドーピング防止規程:World Anti-Doping Code
  • Level 2 - 国際基準:International Standards
  • Level 3 - ベストプラクティス・モデルとガイドライン:Models of Best Practice and Guidelines
Level 1&2は義務規定とされ、Level 3は義務化はされていませんが、効果的で効率的なプログラム展開のためにWADAより推奨される実践モデルが提示されています。
世界ドーピング防止規程は、全世界・全スポーツ間で「標準化 (standardiasation)」されたフレームワークを基に、各スポーツ組織、政府機関によって「調和 (harmonization)」された形で運用されています。2012年3月時点で630の政府関連機関とスポーツ組織がWADCに署名しています。
WADCは第2回スポーツにおけるドーピングの防止に関する世界会議で採択され、2004年1月1日から運用されていますが、既に2007年の第3回世界会議で改定、第2版が2009 Codeとして実施されていました。そしてすでに次のCodeの改定プロセスが2011年11月から開始され、2013年11月に南アフリカ・ヨハネスブルクで開催される第4回世界会議とWADA理事会にて2015 Codeが承認される予定となっています。

アンチ・ドーピングと各国政府:UNESCO国際規約

UNESCO『スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約 (International Convention against Doping in Sport)』の発効は、政府のアンチ・ドーピングに対する責任が明確化されたという点、そして本規約への締結の早さはその他国連関係の規約締結に見られないスピードで行われてるという点でアンチ・ドーピングのみならず、世界のスポーツ全体にとって画期的なものであったと言えます。
UNESCO国際規約に基づく政府側の責任としては、アンチ・ドーピング活動の展開を可能とするための法的な整備やNADOを設置や調査研究を促すための資金援助等、NADOや他ADOがベストプラクティスを推奨できるための環境整備等が求められています。例えば日本国政府は2006年12月にUNESCO国際規約を締結し、それに伴って『スポーツにおけるドーピングの防止に関するガイドライン』を2007年5月に策定、JADAを国内唯一のドーピング防止機関として認定しています。
また近年においては、WADAやNADOが組織的な犯罪を取り締まる機関(例Interpol)や通関・関税警備機関と覚書を結び、スポーツにおけるドーピングを法的観点から取り締まるという動きも出てきています。

どのようにして現在のようなグローバルなアンチ・ドーピング活動が始まったの?

現在のようなグローバルなフレームワークでスポーツ組織と政府間が同じ土俵で動き出したのは、1999年以降です。それまでは、国際スポーツ連盟や政府、国内スポーツ機関が各々のドーピング検査を実施し、不統一の制裁を課してきました。1960年代以降はIOCがイニシアティブを取り「禁止物質リスト」を策定してきましたが、実質的には1999年にWADAが創設され世界ドーピング防止規程が2004年から運用されたことが契機となり、現在のようなアンチ・ドーピング体制が整備されたと言えます。

初期のスポーツにおけるドーピング対策

薬を摂取することよって競技的アドバンテージを得ようとする「ドーピング的な行為」は、古代ギリシャの時代に遡ることができます。「ドーピング」という言葉の起源は、アフリカ南部の原住民ズル族が祭礼や儀式等で振りまわられる“dop"という強いお酒を指すオランダ語であるとされています。英語の辞書に“Dope"という単語が載せられたのは、1889年で「競走馬に用いられるアヘンと麻薬類の混合物」として説明され、この時代に盛んであった競走馬に投与されていた薬物が「ドーピング」であったとも言えます。
近代スポーツにおける薬物使用への懸念は、1928年世界陸上連盟(IAAF)が禁止をするところから始まりました。ドーピング検査が開始されたのは1950-60年代になってからのことであり、世界的な問題として取り上げられるようになったのは、1960年のローマ・オリンピック大会からでした。その後、国際オリンピック委員会(IOC)の中に医事委員会が設立され、IOCがドーピング対策の分野をリードすることになります。1964年東京オリンピックの際に開催された第63回IOC総会ではアスリートによる薬物の使用を批判する決議が全会一致で可決され、同時に開催された「世界スポーツ医学会議」ではドーピングについての議論が交わされました。1968年グルノーブルで開催された冬季オリンピック大会からはドーピング検査が義務付けられ、同年の夏季メキシコ大会でも同様に検査が実施されました。1960-70年代には、フランスやベルギー、そしてイタリア、トルコでドーピング防止に関する国内法が成立します。しかし、1970年代の東西冷戦がスポーツのフィールドで加熱化していったことを背景に東側各国ではドーピングの問題が蔓延して行きました。

初期アンチ・ドーピング活動の重要年度

内容
1961IOC医事委員会設立
1963フランス政府、世界で初めてアンチ・ドーピングに関する法律制定
1964IOC総会(東京開催)にてオリンピックでのドーピング検査の義務付け
1965IOC医事委員会医事規定 (Medical Code)を定める
1966UCI, IAAFがドーピング検査を開始
1967トム・シンプソン(イギリス人・サイクリスト)がMont Ventouxでテレビ中継されていたツール・ド・フランス中にアンフェタミン使用により、死亡 IOC医事委員会初の禁止物質のリストを作成
1968グレノーブル冬季オリンピック大会よりドーピング検査開始・義務化
メキシコ夏季オリンピック大会でも実施

1988年ベン・ジョンソン → 1998ツール・ド・フランス

1988年ソウル・オリンピックの100m勝者ベン・ジョンソンの金メダル剥奪により起こった一連の動きが現在のアンチ・ドーピングのフレームワークに大きな影響を与えたと言えます。ソウル大会後直ぐに開かれたカナダ政府の調査委員会 (Commission of Inquiry Into the Use of Drugs and Banned Practices Intended to Increase Athletic Performance)の結果、カナダ政府は独立機構として「カナダ・アンチ・ドーピング組織 (Canadian Anti-Doping Organization)」を設立、1995年にFair Play Canadaと統合し、スポーツの倫理性をより重視した “Canadian Centre for Ethics in Sport (CCES)"を創設します。カナダでの動きを受けて、オーストラリアやスカンジナビア諸国など数カ国でアンチ・ドーピングのための国内機関を設立されていきます。
さらにソウル大会から10年後の1998年になって、ヨーロッパで人気のスポーツイベントであるツール・ド・フランスで、フランス政府が参加チームから国内で禁止されている薬物を検挙。スポーツの独立性と検察権とのせめぎ合いがあり、サイクリストがボイコットするに至るスキャンダルとなったことで、スポーツと公的機関とをコーディネートすることができる独立した機関の必要性が認識されるようになります。IOCは、1999年2月に「スポーツにおけるドーピングの防止に関する世界会議」をローザンヌで開催、IOCから独立したドーピング防止機関の設立が表明され、WADAが1999年11月10日に創設されることになります。

オリンピック・パリンピックではどのようなことが行われるの?

IOCと大会組織委員会 (OCOG)がWADCに基づき、オリンピックとパラリンピックの選手村開村から開会式までを競技会外(out-of-competition)、大会開催から終了時までを競技大会内(in-competition)として、アンチ・ドーピング活動の権限を有し実施します。IOCは大会毎にアンチ・ドーピングに関するルールを規定し、オリンピック競技大会での選手に求める居場所情報の提出の方法や検査数等を示します。WADAは大会期間中、各アンチ・ドーピング組織から派遣された専門家で構成する「独立オブザーバー (Independent Observer)」として、一連のアンチ・ドーピング活動を監視すると同時に、“Athletes Outreach Program"というアスリートに対して「プレイ・トゥルー」のメッセージを認知し、行動に移すことを狙いとした啓発プログラムを実施しています。
アンチ・ドーピング活動や分析の方法や範囲等は、オリンピック・パラリンピック大会毎に拡張しつつあります。2000年のシドニー大会でエリスロポエチン(EPO)の検出方法が認定され、2002年のソルトレークシティー大会では、EPOの検査が実施されました。2004年に開催されたアテネ大会では、世界ドーピング防止規程が適用される初めての大会となり、ヒト成長ホルモン(hGH)の検査が実施されました。

オリンピック・パラリンピックとアンチ・ドーピング活動

大会内容検査
2000
シドニー
WADA Independent Observerのプログラムを開始。
ヘモグロビンの量を上げるEPO検出方法をWADAが認定、EPO検査開始。
2,359検体検査-
11件陽性
2002
ソルトレーク・
シティー
EPO検査実施。700検体検査-
7陽性
2004
アテネ
全IFsがWADCに署名完了、署名しない国については出場権が無い前提。
ヒト成長ホルモン (hGH)検査実施。
3,505検体検査-
17件陽性
2006
トリノ
イタリアの法律が適用。初めて警察権が禁止薬物への取り締まりに。オーストリア・バイアスロン・チームより注射器と血液バッグが発見され検挙。コーチが逃走、2005-9年にhGHとEPOをアスリートに提供していたことが判明し、実刑判決。1,219検体検査-
1件陽性
2008
北京
4,770検体検査-
15件陽性
2010
バンクーバー
2012
ロンドン
コマーシャル・ラボ(GlaxoSmithKline, GSK)を使用し、オペレーションをKing's Collegeが実施するという初のコラボの試み。インテリジェンス・テスティングを実施。

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